Photograph from Asia 



 

   水と緑の輝く村

   写真・文/ 小池奈美 (こいけ なみ)   

 ダッカからクルナへガンジスを船で行き、そこからインドへ向かうことにした私は、夕方5時発の旅船ガジ号に乗り込んでいた。
 ふと目覚めると、全ては灰色一色、沈黙の世界だった。漂い動く河から昇る蒸気と、家々からの煙、森を覆う霧…。茶色い河と緑深いジャングル。刻一刻と世界は色づき、夜が明ける。
 甲板に立っていると2人の姉妹が話しかけてきた。トリプティー(14)とシュプティー(11)。彼女たちの熱烈な要望をありがたく受け入れ、私は彼女たちの住むモレルゴンジという村で急きょ途中下船することを決めた。バングラデシュ南西部に位置し、“シュンドルボン”(ベンガル語で“美しい森”の意)と名付けられた世界最大のマングローブの森林にほど近い、ガンジス河口の村である。
 独特の狭い道に並ぶ竹でできた古い家々が、生い茂る緑とつやつやと光る黄緑によく似合う。緑と水の豊かさを感じる。シュンドールという言葉の響きはこの輝きのことだと思った。
 この村の住人は、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒がおよそ半々。トリプティーは、村人とすれ違う旅に『ナマシュカール』または『アッサラームアライクム』と私に耳打ちし、私はそれに従ってあいさつをする。この村では、相手の宗教のあいさつをお互いにするそうだ。『相手が喜ぶからよ』とトリプティーは言う。
 ヒンドゥーとムスリムといえば犬猿の仲という印象があるが、国境という障害がない場合、そうとは限らないものである。むしろ、かつてはムスリム同士ひとつの国家を形成していた現パキスタンへの嫌悪感を、この村の男たちは今なお怒りとともに語っていた。
 1971年のバングラデシュの独立戦争(第8次印パ戦争)で、この周辺地域でも多くの人が亡くなったそうだ。一般市民にとって戦争というのは、勝敗に関わらず、戦地となったが故に大きな傷をより長く残すものだと思った。
 あっと言う間に一週間が過ぎ、カルカッタの病院へ行くというトリプティーの父親とともに、小舟やバスを何度も乗り継いで国境へ向かった。


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