Photograph from Asia 30


   国道6号線 タケオゲストハウスの怪

   写真・文/ 杉岡 幸徳 (すぎおか こうとく)   


 これは知らない人は誰も知らないが、知っていても何の役にも立たない情報で ある。カンボジアのアンコールワットのある街シェムリアプに、「タケオゲストハウス」という奇怪な安宿があるのをご存じだろうか。「知っている」と答えた方は、きっと健全な社会生活を送っていないはずで、喜ばしいことだと思う。
 この街を東西に走る国道6号線沿いには、なぜか日本人だけが集まる不気味な 日本人宿が密集している地帯があって、地元の人々もこの地域を「日本人村」と 呼び慣わしている。ここには「チェンラゲストハウス」「アプサラゲストハウ ス」などという、知っていても何の役にも立たない日本人宿が渦巻いているのだ が、その中で最もカゲキなのがタケオゲストハウスだろう。ここには素敵に、日本人しか存在しない。
 この中で使われている公用語はもっぱら日本語で、一見クラブの合宿場の雰囲気である。アンコールワットなどとっくに見飽きた人々が延々と8ヶ月も巣くっ ていて、しかも食事は3食出してくれるので、外に出て行く必要もない。よって、数カ月もシェムリアプに暮らしながら、宿の周辺20m以内のことしか知らな い人がわんさかいる。彼らは何が楽しいのか、ハッパもやらず不純異性交遊にふける訳でもなく、楽しく退屈な日々を送っている。ここのドミトリーには“ドミ 長”と呼ばれる人種がいて、ドミに巣くう人々を仕切っている。誰かが宿を出ていくとなると、お別れパーティを開いて、Tシャツにみんなで寄せ書きしたりす る。ここには「タケオ友の会」という会員組織があって、「2001年の幕開けをタ ケオで迎えようじゃないか!」などとやっていた。僕にはまったくついていけない世界なのだが、この宿の前のシェイク屋が安くて雰囲気がよかったので、毎日通っていたのだった。こんな人生でいいのだろうか。

Photo Gallery 目次
Photo Gallery 31

ご感想をお寄せ下さい