Photograph from Asia 29


   カルカッタの車夫

   写真・文/ 豊田直巳 (とよだ なおみ)   


 何の知識もなく立ち寄ったカルカッタの街でリキシャを見た。初めてのことだから懐かしいはずはない。ただ、中国やカンボジアで見かけた自転車に客席をくっつけたものと異なり、明治、大正期を扱ったドラマなどで見たことのある、まぎれもない人力車。しかも、日本でも京都などの観光地に行けばあるとは聞くが、ここではサリーを巻いたおばさんの買い物や、ちょっとした用事、仕事や、制服の子どもたちが通学に使っているようなのである。
 そこで、その人力車を半日雇って車夫の「会社」に連れていってもらった。責任者のアンワル・フセインさんによると、この「会社」は70年からやっているそうで、現在200人の車夫を抱え、そのうち常時、その半数の車夫がリキシャを引いているという。つまり、車夫はビハール州の同じ村出身で、半年交代でカルカッタに出稼ぎに来ていると言う。「車庫」は修理工場と飯場も兼ね、100人の男たちが寝泊まりしながら街に車引きに出るという。車夫たちの出払った「車庫」では、数名の修理工がフイゴとハンマーで鉄を加工し、文字通りの手作業で車輪や車体を作っていた。ちなみに新品で15000ルピーという。隣の厨房では賄いの少年が薪で調理をしている。こうした人力車の「車庫」はカルカッタには70(「サイクル・リキシャ」を含む)もあるというのだから、これらのリキシャが「なくなってしまうのでは」との心配はいらないのかもしれない。もっとも排気ガスで街が煙ってしまうほど急速に自動車が普及して、交通渋滞が恒常化した現在、メイン道路から路地裏に追いやられてしまったことは確かなようだ。黒煙の排気をまき散らしクラクションで追い立てるバスの前を横断するとき、田舎出身の車夫は、一瞬の戸惑いの表情を見せた。

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