Photograph from Asia 23


   セラム海の漁師

写真・文 笹岡正俊 (ささおか まさとし)      


 夜明け前の暗闇のなか、ウパンさんのコレコレ(小船)にのって港を出た。船首の横を、夜光虫の放つ光が無数の線を描く。 ウパンさんは、セラム島(インドネシア東部)の北海岸に位置するサワイ村の住民。雨や風のない日にはいつも船を出し、網を使って漁をする。日に焼けた顔は色艶がいい。
 夜が明け、少し日差しが強くなりはじめたころ、ようやく漁場についた。ウパンさんは船のモーターを止めた。海をわたる風の音だけがしている。じっと水面を眺めながら、「水面で魚たちが遊ぶ」のを待つのだと言う。 しばらくして水面にさざなみがたつのが見えた。「魚たちが遊び始めた」のだ。彼は櫂をつかって船を静かに動かし、波のたっている水面のまわりにぐるりと網をたらした。すこし待ってから、ゆっくりと網を引き上げた。網にはサレリニャと呼ばれるイワシのような魚が銀色に光っていた。この日は、結局、網を2回おろしただけで漁は終わった。収穫はサレリニャが30匹ばかり。家に戻ると、娘さんがとれた魚を焼いてくれた。すだちの酸味のきいたチョロチョロと呼ばれるたれをかけて食べた。美味いといって目を丸くした私をみて、ウパンさんも嬉しそうだった。
 私がサワイ村を訪れた98年5月、真珠貝養殖のためのいかだが村の近海に広がっていた。村のすぐ近くには大規模なエビ養殖場が、セラム島の南海岸には魚の冷凍貯蔵施設が建設されていた。村をとりまくこうした環境の変化は、ウパンさんのような小規模伝統漁民のくらしにどのような影響を与えるのだろうか。
 今度セラム島へ行くときにも、網を引き上げるウパンさんの写真を持って、ふたたび彼のもとを訪問しようと思う。
(インドネシア民主化支援ネットワーク)

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