Photograph from Asia 21


   イランから来た青年労働者

   写真・文/ 嘉納 まふゆ (かのう まふゆ)   


   1980年から8年間に及んだイラン・イラク戦争。彼は当時少年兵士として戦場にいた。ある日、所属する小隊が川辺で休息をとっていたとき、彼は上官から水を汲んでくるように言われた。彼は仲間の兵士と2人、バケツを持ってすぐ横にある川辺に行った。そして水を汲んでいると間もなく、上からヒューッという音がして、振り返ると、ちょうど兵士たちが休んでいる場所に爆弾が落ちた。「一瞬にして、何もかも木っ端微塵になったんだ。骨も肉も飛び散って、誰が誰のかわからなかった」。もう少し小隊を離れるのが遅かったら、彼もその爆弾の犠牲者になっていたに違いない。
  「だけどね、いちばん恐かったのは生物兵器だったんだ」と彼は言う。無味無臭の気体が風に乗ってやってきて、それを吸い込んだ瞬間息が苦しくてできなくなる。「ほんの数分で死んでしまうんだ。それから、皮膚に触れるとただれて溶け出すやつもあって、一旦その症状がでてしまったら、もう死ぬしかない。みるみるうちに皮膚が溶けだして、骨がみえてくる。痛くてつらいから、みんな死ぬのを待つより、携帯している毒薬を飲んで自殺する方を選ぶんだよ」。いつもいたずらっ子のようにクリクリした目をしてニコニコしている彼が、そんな大変な体験をしているとは全く想像がつかない。「戦争なんて、もう絶対に嫌だ。もうこんな話やめようね」。そう言って彼はいつもの元気な男の子に戻ったが、戦争から帰還してしばらくは、生活の中で記憶が途切れてしまうことがよくあったという。
  戦争に打ち負かされず、それを克服した青年は、今は都内の印刷工場で手を真っ黒にしながら働いている。「日本にきてから今まで、ずっと国のお母さんにお金を送ってたんだ。それで去年、お母さんはテヘランにアパートを買った。だからこれからはいっぱい仕送りしなくてもよくなったし、今後稼いだお金は、少し自分のために使おうと思ってる」。彼はまた少年のように瞳をクリクリさせて、うれしそうにそう言った。(フォトジャーナリスト)

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